【統失自伝エッセイ2】泣いたあの日 後編

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好きな子が自殺した。 

お風呂場で。

突然自殺した。

練炭で自殺した。

2014年2月8日。

俺は、その子が心配になってラインを送ったがもう既読になることはなかった。

いつか既読になるんじゃないかって。

また、いつものように、会話できるんじゃないかって。

せっかく仲良くなれたのに、突然の別れになるなんて。

俺は、辛かった。

俺は、苦しかった。

まだ、大丈夫。

きっと生きてるはずだって。

そう信じた。

もともと、メンへラの女の子で俺同様精神疾患を抱えた女の子だった。

好きな人と、心中したいというそういう願望があったようだ。

いつも、だってだって愛なんだよって。

だってだって死んじゃうんだよって。

そう、キャラクターの受け売りを良く言っていた。

でも、明るいそのキャラクターに、俺は次第に惹かれていた。

2016年に失恋する前に現われた、気になった1歳年上の女の子だ。

いつも彼氏の相談を俺は受けていた。

いろんなことを彼女ーーゆあちゃんは、正直に話してくれた。

しだいに気になる存在となっていた。

当時の心が不感していた俺に、生きる活力と喜びと楽しみを与えてくれた女の子。

そんなゆあちゃんが。

彼氏が自殺したことをきっかけに。

一日遅れで彼女もあとを追い、この世を去った。

ゆあさんが彼氏のあとを追ったことは、元彼から連絡があり、その情報を知った。

いまだに、連絡が取れないし、その事実は嘘であってほしいが。

最後の通話をしたとき。

彼氏が死んだとき。

ゆあさんは泣いていた。

彼女は泣いていた。

俺は、ゆあさんは死なないでください。

って、その言葉が最後になって、通話を切られた。

彼女がこの世を去ったという事実を知って。

俺は、なぜか。

なぜか、俺は、涙を流せなかった。

自分の心がそれほど不感していた。

そんな不感した心が許せない気持ちになった。

悔しい気持ち。

苛立たしい気持ち。

自分に対して、そう思った。

どんなに悔しくて、どんなに自分が許せなくなっても。

彼女はもう帰ってこない。

嘘であって欲しい。

きっと嘘なんだって。

俺を驚かせたいだけなんだって。

しばらく、俺の心は切り替えられなかった。

いまだに、彼女のことは忘れない。

あの子の元気。

優しさを。

それから2年の歳月がたった。

2016年。

不感していたあのときとは、だいぶ状況が違った。

断薬の影響の妄想で、情緒が不安定だった。

社会に対する違和感、不信感、反骨心。

自分は一人ぼっちだ。

社会人は一人ぼっち。

みんな一人だ。

学生は違う。

みんな寄り添って。

みんな助け合って。

それを依存、寄りかかりと悪く表現してしまえばそれまでだが。

どう考えても、なにもかも割り切ってしまった元職場に比べて、学生の子たちは、美しい心だと思う。

俺は、今日も一人だ。

大人になんかなりたくない。

ずっと子供でいい。

学生のままでいい。

全ての人が友達で。

全ての人の心を大切にして生きていきたい。

でも。

そんな心が強ければ強いほど。

社会に取り残されている自分に気がつく。

ほどほどな距離感で。

ほどほどな会話をして。

無難な会話をし、その日が終わる。

社会人になってからそんな日々の繰り返しだった。

寂しい。

俺は一人ぼっちになりたくないのに。

こんなにも、人を求めているのに。

そんな人間に限って。

社会では生きて行けないし、本当に一人に取り残されている。

今日もゲームセンターで。

訳のわからない行動をとっていた。

自分が読んでる本を宣伝するかのように。

好きな本をクリアファイルの中にいれて足元に置いておく。

自分はこの漫画の宣伝役になるんだって。

興味がありそうに、学生の子達がそのクリアファイルを見てくる。

社会人は全くそんな個人の管理物に興味を持たないが。

学生はそんな管理物に興味を持つ。

そして、俺は、意味もないが、なにかに導かれるように、ポップンミュージックを始めた。

お金を入れる。

1曲目を引く前に。

車のカギをゲーム台のコントローラーの前に置いておく。

とくに行きたくもない、トイレへと向かう。

その頃、ポップンミュージックの1曲目が始まる。

トイレへ行く。

そこではただ手を洗うだけ。

何もしない。

用はたさない。

そのときも自分のことを考えた。

俺は社会に抹殺された。

冷たい社会。

誰も助けてくれなかった。

この世に。

ほんとに自分を助けてくれる友達なんてきっといないんだって。

仲良かった学生時代の友達。

きっと変わってしまっただろう。

あれは、瞬間的なものでしかなかったんじゃないかって。

もの凄く悲しい気持ちになった。

やっぱり俺は一人だ。

どう考えても俺は一人ぼっちだ。

こんなに寂しく悲しいことがあるだろうか。

俺は、そんな心のなか。

やりっぱなしだったポップンミュージックの台へ戻った。

曲はもう始まっていた。

しかし。

驚くべき光景が目に入った。

その場。

その場にいた。

その場にいた女子校生達が、一生懸命無邪気に俺のポップンの台を必死に弾いて叩いてた。

驚きと同時に。

涙が溢れた。

凄まじい速さで涙が流れてきた。

ゆあさんが死んだと聞いたとき、涙は流せなかったが。

今は違った。

もうみっともなく、涙が流れ続けた。

この子ら優しい。

この子ら学生たちは優しい。

普通は鍵が置いてある、それもだれがやっているかわからない、ゲームを。

人がやり途中の管理物に、まず社会人は触れることはない。

他人の誰がやっていようと、勝手に曲が始まろうと。

社会人は触れないだろう。

でも学生は違う。

だれかもわからないこの管理物を。

やり途中のゲームを、怖がることなく触れてくれた。

こんな俺を。

こんな26歳のよくわからない中年の男を。

自分を受け入れてくれたんではないかって。

その管理かにあった俺のゲームを、勝手に触れてくれたことに。

俺はもう感動で涙がやばかった。

多分本当に、凄まじいほど泣いてたと思う。

俺は、ゲームの近くに戻り。

それに気づいた女子校生達が、俺にどうぞと、すぐ交代してくれた。

俺は、嬉しかった。

本当に嬉しかった。

曲が。

この曲が。

チョコレートスマイルというこの曲が。

信じられないほど心に響いた。

涙はいっさい拭わない。

見られたっていい。

へんなやつだって思われてもいい。

怖がられてもいい。

この涙にいっさい嘘なんてないんだから。

みたきゃみろ。

むしろみてろ。

そう思いながら曲は終わった。

最後に。

俺は泣きながら、女子校生達に。

ありがとうね!

と一言言って帰った。

帰り道。

ゆあさんのことを思い出した。

涙を流せなかった俺だったけど。

いま、ようやく泣けたよ。

そんな報告を。

彼女はどこかで聞いていてくれたらいいなって。

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