【統失自伝エッセイ8】さまよう者の流儀 後編
上島竜兵は、俺にあやかろうとしていた。
竜兵会のリーダーダチョウ倶楽部上島竜兵。
彼は、さまよう者を監視することが好きであった。
芸能人である彼にとって退屈しのぎが、このさまようものの行動の監視。
その行動を笑ったり、流儀などルールをクイズのように予想したり。
ダイハツの車に乗る俺を、盗聴、盗撮していた。
さまようものに興味を持ち、人気や勢いのある若い俺に、のちに近づき、俺を竜兵会へ入会させ、なんとか人づてに、竜兵会に綺麗な女性を入れようと目論んでいる。
竜兵は時折、俺を追跡することがある。
とくにセブンイレブンで遭遇する妄想が多かった。
さまよう者によく言う言葉が、長い旅や目的の分からない旅を続ける者に、
タウンページは買うなよという言葉である。
俺が少しでも、タウンページを買おうとか、そういうそぶりを見せたとき、おそらく、竜兵は許さないだろう。
自分のあてのない旅に、目的や、答えや正解を簡単に導くなという意味なんだろうか。
俺はそういう風に解釈した。
俺は、ある日思った。
童貞を守り死守し続ける俺は、しんどかった。
女性を危険視し、避けることも。
少しの癒しが欲しかった。
癒しとは何か。
俺が企画したかった女性の癒し。
それは。
ノーパンカルタである。
俺は、小学校中学校の頃の女子友達とノーパンカルタをしているところを想像した。
だが、それをやるとしたら、もう竜兵会が黙っちゃいない。
ノーパンカルタだとぉ!
許さん!
俺も参加する!
上島竜兵が必ず動くだろう。
それを心よく思わないのは、女性陣たちで。
少しでも竜兵会に興味をもとうものなら、
『竜兵会には絶対入っちゃだめ!』
と、とくにあずきさんや、乃木坂、AKBの子たちの面々が申している。
だから、俺は、極力竜兵や竜兵会には関わらないようにしよう。
コンビニで竜兵を見かけても、無視しておこう。
そう思った。
でも、ノーパンカルタはやはりヤリタイ。
地元の下の句カルタの練習場で、俺はひっそりとノーパンカルタをやる妄想をした。
女性陣はノーパンどころか、全裸のスッポンポン。
千花ちゃんが特に、ノリノリだった。
これじゃあ、ノーパンカルタではなく、全裸カルタである。
しかし、俺はなぜか、そのノーパンカルタでは、目隠しし、目隠ししたまま、下の句カルタの札を読んでいる。
目隠しした俺の前で、俺がなにも見えないことをいいことに、千花ちゃんは、スッポンポンで俺の目の前で踊り狂う。
千花ちゃんは笑ったまま踊りまくる。
その声と気配に、俺は、
『見てぇー! めっちゃ見てぇー!』
と叫ぶ。
彼女らの美しき女体の姿を目視できずして、ノーパンカルタをやる意味があるのだろうか?
そんな妄想をする。
だが。
そんな妄想なんて、どうでもよかった。
今。
この状況。
俺は、妄想だが、アンジャッシュの渡部さんとカラオケボックスにいる。
もう2000円しかない。
2時間くらい歌っただろうか?
お金の存在に気づき、料金のプランもよくわからないまま、レジへ会計を済ませようとした。
値段は……
2時間で1000円だった。
やっす!
飲み物なしで、歌うだけ。
でも夜の時間帯。
そんな安いだろうか?
何か記憶違いかもしれないが。
もう1000円しか残っていない。
俺の車でもうここから、1000円で早急に帰ることを考えなくてはならない。
俺は、店を出て、車に乗り込んだ。
長いドライブが始まろうとしていた。
何時間かかるだろうか?
給油は大丈夫だろうか?
燃料は間に合うだろうか?
お金はそこをつきないだろうか?
とにかく俺は、帰ろうと思い、家へと向かうため車を走らせた。
このダイハツの車は、あまりスピードが出せない。
というか、出したらなんか壊れそう。
以前、スピードを出しすぎて、ギアが飛んだことがあった。
もうこのダイハツの車も寿命だろう。
ゆっくり走らないとギアが飛ぶ気がしていた。
だから、俺は、40キロくらいで、ずっと長い夜の直線道路を走行していた。
このペースで帰ったら、もしかしたら6時間くらいかかるかもしれない。
長い道のり。
長い運転。
疲れた体。
不眠不休で、体に鞭打って、あてもない、答えのない、番組になるであろう、旅の運転。
俺の体は限界を迎えていた。
急に強い睡魔、眠気に襲われていた。
眠い。
酷く眠い。
これは、危ないと思った。
どこかで休憩して寝ようと思った。
でも、どこに車をとめて寝ていいのだろうか。
ルールを気にしていた。
町はずれ、でて、長い直線をずっと走っていたため。
俺は、どこに車を止めるべきか困惑していた。
この道路の直線の隅にウィンカーをつけて、止めて、仮眠をとるべきか?
いや、それは駄目だ。
危険だ。
やめておこう。
運転を続けることにした。
だが眠い。
もう限界だ。
その時だった。
禁断症状なのか。
何か危ないものが見えた。
夜の車の中。
外は真っ暗な道路で。
道路の真ん中付近を、人ではない人のような、黒い影のような何かが、テクテクと歩いている姿が見えた。
これは、なんだ。
俺の体は、氷ついた。
怖い。
恐怖の気持ち。
幽霊か?
幽霊なのか?
俺は、怖がり恐怖しながら、その影のような者を気にしながら、車を通過させた。
その影を車が通過していこうとした瞬間。
俺の体の中に、何かをとりこんでいく感覚があった。
これはなんだ。
体が。
心が。
震え。
覚醒する。
さっきまでの恐怖が。
どんどん好奇心、興味に変わって行き。
見える視界に映るすべてが。
幽霊や、巨大生物、あるいわ、巨大物体に見えてきて。
それは、逆にその恐怖に好奇心を抱き、その恐怖を求めた。
視界に映る恐怖は、全ておかしなものに見えた。
標識が、なんか変な巨大な形に見えたり。
標識が、モスラに見えたり。
標識が、東京ドームのような盛り上がった建物に見えたり。
どんどん不思議な気持ちになった。
眠気が恐怖。
恐怖が好奇心。
好奇心が歓喜に変わっていった。
面白い。
楽しい。
これはなんだ。
これは、おそらく。
危険因子を察知した、俺の体の防衛本能か。
そうでないのか?
幽霊を見るくらいの非日常的体験でもしない限り、寝てしまうと考えた俺の体の防衛本能なのか?
はたまた優しき幽霊たちの虫の知らせなのか。
俺は、謎に包まれたまま、一晩中車を走らせ、朝を迎えた。
朝になっても、車を走らせ続けた。
家は遠い。
まだつかない。
給油は大丈夫だろうか。
もう少なかった。
やばい。
急いで、給油しなきゃ。
ちょうど家の近くの隣町についているころだった。
そこで、残り少ない1000円を給油し、俺は、家へと向かった。
向かっている最中も妄想は止まらなかった。
いつも多くの妄想で、多くの人が集まる場所があった。
それは、ウエスタンと呼ばれる地元のバイキングだ。
大きな、小上がりの席で、よくわからない、種あかしというか、答え合わせというか。
まず、その集まりはいったいなんなのか?
まぁ、つまりは、俺を監視し続け、その結果みんな何を感じ、何を思って、今後どうしなければならないか、組織や芸能人やプロ野球選手らが集まったりして、直接やりとりするサミットの場である。
このサミットの場でいつも話題の中心は俺だった。
俺が話題の中心で。
このバイキングサミットは、さまざまパターンがあるが。
上島竜兵のことを思い出したとき。
上島竜兵は言う。
『おれは、さまようものの行動が大好きだ。わとそん、お前の行動がすげー好きだし、面白いと思ってる。でも、なんで、俺ばっかり、避けてる。お前は、女の子や俺のことばっかり避けてるだろう』
俺は、それに、
『いや、上島さんは、竜兵会のトップで、俺にとっては、すごい人なんで、俺なんかが竜兵さんと関わるのは良くないと思っています』
上島竜兵はこう返す。
『おまえよ。嘘つくなよ。俺は、さまようおまえをいつも見てるから知ってるんだよ、お前はいつも、体をぼろぼろにして、自分傷つけて、苦労して。そんな自分殺してまで、お前頑張って生きようとするなよ』
そんな優しい上島竜兵の言葉に。
思わず、俺も、竜兵も涙を流す。
『やっとわかりあえたぜ……』
なんてことを竜兵が勝手に言いながら。
その同時の涙に。
心の通い合いを感じる。
上島さんはいい人だ。
きっと、竜兵会に入ったら、可愛がってくれるだろう。
竜兵会に入ろうかな?
と気持ちが傾いた瞬間。
その会場に座っていたあずきさんや、コヒレの面々、女の子たちが。
竜兵会にはいっちゃだめ! 騙されちゃだめぇ!
と叫ぶ。
おっと危ない。
竜兵会に心を持って行かれるところだった。
その後おれは、女の子たちと会話した。
コヒレの子ととくに会話していたと思う。
普段は、俺は全然パチ屋で自分の事を話さない。
あえて、話さないことで、秘密主義を貫き、ミステリアスに自分を魅力的に見せていたつもりだった。
その後もいろんな妄想が頭をかけめぐったが。
家に着いた。
すっかり朝も終わり、昼だった。
家には、親が心配の眼差しで、俺に話しかけてきた。
あんた、いったい、どこにいたの?
俺は、答えた。
やっぱり美幌峠は越えられなかったわぁと。
その後。
俺の妄想で。
峠を越えようとしたあの日の一日は、いったいなんだったんだろうかと?
テレビ番組でその様子が流れ。
みんなその謎を深めていったのである。