ブルーデージー

とある日の一幕。

愛してるって言われて。

愛してるって素直に答えた。

彼女の言葉が嬉しくて。

彼女の笑顔が心地よくて。

何度でもその言葉聞いていたいし。

僕も何度でも愛してるって言ってあげたい。

病室の窓から移ろいゆく季節を眺め続ける彼女。

もう何か月入院していることだろうか。

いきつけの花屋に勤めていた彼女はもう入院して4カ月が立とうとしていた。

入院前は元気な彼女だったが。

入院後は持病のガンの抗がん剤の副作用などで髪の毛は抜け、日に日に元気がなくなっているように見える。

今日も彼女はいつものように窓の外を眺めていた。

とそこへ、僕が部屋へと入って行った。

「お見舞いに来たよ美樹ちゃん、黄色いお花のアレンジメントもってきた」

「ありがとう、綺麗な花だね」

「美樹ちゃんが作ってくれるアレンジメントには叶わないよ」

「そうかな? 祐樹くんのアレンジメントも綺麗に出来てると思うけど」

「そう? ありがとう!」

嬉しそうな彼女の表情に、僕は心地よい気分になる。

とそこで、彼女が、

「ねぇ祐樹くん、私のどういうところが好きになったの?」

と聞かれ、間髪いれずに、

「優しいところ。綺麗なところ。笑顔が素敵で可愛いところ。ほんと全部が好き」

僕は、彼女が入院する前の4か月前に彼女に告白した。

告白の返事はまだ彼女の口から聞いていない。

とそこで、僕が、

「そろそろ、告白の返事聞かせて貰えるかな?」

もう返事なんてわかっていた。

彼女は僕のことが好きで、僕も彼女のことが好き。

でも告白の返事を渋っていた理由が僕には分らなかった。

すると美樹の表情が急に悲しい顔になり、重い口を開いた。

「私ね……祐樹くんのこと好きだよ……でも……」

「でも……でも……何だろう?」

「でもね……私ね……答えられない、私ね応える資格がないの」

「どうして?」

すると突然彼女が涙を流しながら、

「私ね、もうそんなに長くないの。それにもう子供もおそらく産めないの……」

涙を流す彼女にそっと顔に手をあて涙を拭う僕。

「そんなことないよ。大丈夫。大丈夫」

何の根拠のない大丈夫の言葉だったが彼女には心強く響いた。

しばらく彼女は顔を伏せ、泣いていたが、再び重い口を開き

「やっぱり応えられないよ。好きなのは嬉しい。一緒にいたい。ずっとずっと一緒にいたい。でも、私がいなくなった時、私もあなたもきっと辛いと思う」

「美樹ちゃんは大丈夫だよ! 俺がずっとそばにいるから、一人にさせない。この手をずっと握っていてあげるから」

そう言い僕は、彼女の手を握った。強く強く握った。

彼女は嬉しそうな表情を浮かべ、幸せそうな彼女の表情を見て、僕も幸せな気分になる。

「このまま時計の針が止まればいいのにね……」

時計の針は止まらない。

午後2時過ぎをさしていた。

残酷にも時間は過ぎていく。

余命1カ月。

彼女の命のタイムリミットだった。

時間が進むにつれどんどん、彼女はやつれてきて、一人で立ち上がる力も失い、弱っていくのがわかった。

そして、ついにその日タイムリミットの日を迎えた。

病室で、彼女が僕に言う。

本当に弱弱しくかすれた生命の漏れ出すような声で

「祐樹君、初めて買ってくれた花、覚えてる?」

「ブルーデージー」

「花言葉はわかる?」

「幸福、恵まれているって意味だよね、確か」

「私もう駄目みたいだけど、今とっても幸福、恵まれている」

そう彼女が言うと、慌てて僕は、彼女の手を握り、

「駄目じゃないよ。駄目じゃない。大丈夫。きっと大丈夫だから」

僕が強く握る手も、彼女の握り返すわずかな握力もどんどん力を失っていき、

「会えて、嬉しかったよ、祐樹くん、次産まれてきたら、どうか素敵なお嫁さんにしてください」

「僕も嬉しいけど、ここで終わりじゃないから、元気になって結婚しよう」

「ありがとう」

ありがとう。彼女が最後にそう言い残し、握っていた手も静かに力を失い、彼女は静かに眠りについた。

10年後。

「そこのお兄ちゃん、お勧めのお花をひとつください」

綺麗な女性がお花を一つくださいと言ってきた。

「これがお勧めだよ、花言葉は幸福、恵まれているを意味する、ブルーデージー」

「縁起のいい花ですね! ありがとう! お兄さんところで独身なの?」

「なんだい、いきなし、狙ってるのかい? 嬢ちゃん」

「いや、なんかかっこいいなって少し思って」

「少しだけかい」

「で!? 独身なの?」

「一応既婚者だよ、3年前に結婚してっ、ほらっ!」

そう僕がいい、左手薬指にはめてある結婚指輪をみせた。

「ふーん、なんだか残念っ! いきなし振られちゃった気分……」

「まぁこの花買って、嬢ちゃんも幸せ掴んでね! ところで名前は?」

「美樹って言います」

美樹。10年前亡くなった彼女と同じ名前だった。

「美樹ちゃんか、確かに面影あるね」

「え!? どういうこと?」

「なんでもない」

そして、お客の美樹はブルーデージーを購入し、去って行った。

僕は、空を見上げた。

空に話かけた。

「今俺花屋やってるよ。けっこういい男になったよ。ブルーデージーいまだに好きだし、花の売れ行きも好調だし、ほんとに幸せだよ。こんな生活してる俺、許してくれる?」

そう僕が言うと、

「いいよべつに。でも仕事さぼらない、まだまだ仕事あるんだから!」

そう空から声が聞こえた気がした。


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