【統失自伝エッセイ6】さまよう者の流儀 前編

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俺が思うかっこいい男の理想像を語ろう。

それは。

俺のお金の使い道は……給油!

それだけ。

そう答える男こそが、最強にかっこいい男だと思う。

給油だけしかお金を使わないで、生活を続ける男。

なんてカッコイイのだろうか。

なんて素敵なのだろうか。

と。

俺は憧れた。

俺もそんな人間になりたい。

ならなくちゃいけないって。

そう思った。

理由は様々ある。

金にシュレッターをかけたことにより、金に対する否定的思想があるし。

そもそもお店に売っている製品。

飲み物。

食べ物。

それらが信用できない。

家族である親が作った料理ですら信用できない。

もしかしたら、なにか毒が入っているかもしなれない。

もしかたら、睡眠薬が入ってるかもしれない。

組織が自分を狙っている以上俺は、安易に製品を口に出来ない。

ならば、外にある自然生物。

これら、自ら狩り獲り、食べるしか、生きていく道はない。

そう思った。

でも、どこかに行ってそういう生物をとるにも。

移動手段が必要。

車が必要。

燃料が必要。

とどのつまり。

お金が必要。

じゃあ妥協して、給油だけはOKとする。

俺は、製品は絶対食べない。

一生絶対食べない。

心に誓った。

哀川翔も『その瞬間はガチでそう。一生製品を食べない覚悟を持っている』

と俺と同じ気持ちを抱き、語っている。

絶対に食わないと決意しても。

どうしても。

誘惑という親戚のおばさんが買ってきた美味しいピザが目の前にあったりで。

これを食ったら最後。

俺は死ぬ。

死を意味する。

絶対に食べない。

食わない。

覚悟や決意や心は強く誓うが。

だが、お腹は正直で、まともにメシを食ってなく、数か月で20キロ近く痩せた俺は、どうしても、そのピザに手を伸ばそうとする。

だから。

結局は。

ルールを変えるしかない。

逐一ルールを変える。

人は、意識しているものしていない者さまざまいると思うが、自分自身のルールを持って生きている。

ルールという流儀。

俺の今のルールは、給油のみ金を使ってよい。

製品や親が作る家の料理。

それらは食べてはいけない。

絶対にダメ。

一生駄目。

だがそんなルールも結局目の前の美味しそうなピザを食べるためには。

崩すしかない。

だから俺もやくみつるも言う。

『俺のルールは動く』

と。

そうルールは動くのである。

流動的に動くのである。

動くことは自分が納得していれば別にいい。

だが、その動いたルールを他者や、組織に知られることは絶対あってはならない。

なぜなら、ルールや流儀を知られた人間は、そのルールを逆手に取られた場合、相手に利用されてしまうからだ。

だから、製品はOKとルールが動いたことを悟られないように、俺は、その目の前のピザを食べる。

やはり上手い。

しかし、一度ルールを変えると、音を立てて、ルールは崩れていく。

お店のメシは食ってはならない。

そんなルールも。

マルハンの食堂のごはんどきの生姜焼き定食のまでは、変えざる追えなかった。

じゃあ、製品、お店の、メシは食ってよい。

そうルールを動かし、その生姜焼き定食を食べた。

そして、食べ終わった。

しかし。

なんだか眠い。

とても急に眠くなった。

これは、きっと睡眠薬を入れられたんだ。

俺は、ただ食って眠くなる食後の眠気を、睡眠薬投与と妄想してしまって。

こころのなかでは、作ってくれたおばさんに、

『睡眠薬入れましたね!』

と、きいている。

きっと味噌汁のなかに、粉々の粉末状の睡眠薬が入っていたのだろう。

組織の仕業だ。

俺は、このパチ屋に、良くも悪くも好かれ嫌われている。

パチプロ級の実力があるから、不利益を与える存在でもあるし、いっぱい出だまを出してくれる客だから、集客に繋がる客である、とも思われているだろうと、俺は妄想している。

もう俺は、運転出来ない。

親に連絡し、助けを求めた。

明らかにおかしい。

何かがおかしい。

もう家を出よう。

何も見ずに、あてもなく。

とにかく峠を越えて、旅に出よう。

数日の休養をへて。

旅へと出た。

俺の旅の様子や気持ちや車のなか。

全てもう盗聴盗撮されていて。

今後テレビ番組にされてしまう。

黄金伝説あたりか。

はたまた違う番組か。

まぁ俺の相性的には、黄金伝説が向いているだろう。

そんなことはどうでもいい。

じゃあ、テレビ番組になることを意識して車を運転してやろう。

旅に出るまえの今のルール。

やはり、製品は駄目。製品を食べるとまた睡眠薬を入れられる。

お店の料理もだめ。

自給自足ならOK。

金は、給油のみ。

以上。

では家から出発!

俺は、峠を越えるため、車を走らせた。

長い道中。

いろんなことを考えた。

自分がさんま御殿にでているということ。

新社会人はみんな一度は挨拶のため、さんま御殿にでなければならないということ。

さんま御殿に出ている俺が、一生懸命しゃべって笑いをとろうとしている。

青いパジャマに、小学校時代作った、世紀末リーダー伝たけしのリーダーバッジ。

リーダーバッジをつけ、青いパジャマを着た俺は、

『赤い学生気分』

という芸名でピン芸人として、さんま御殿に出ているような妄想をしてみる。

妄想の中の自分がさんまさんに、話題をふられ、答える。

『お前は、なにをしたいんだ?』

と聞かれ、俺は、苦笑いしながら答える。

『俺は、どうしたいか……まず、それがわからないということ。俺は、答えを求め続けているということ』

さんまはさらに尋ねる。

『お前のなまえはなんなんだ?』

『赤い学生気分です……』

『赤いって、お前それ、青いパジャマじゃないかーい』

とお決まりのツッコミが入り、場内のお客さんは爆笑する。

赤い学生気分は答える。

『俺は、学生のように、答えを求め続ける。どうしたいか自分でわからないから……』

その後もさんまはいくつかの質問を尋ねてくるが、俺は結局、

『わからないということ……』『俺が知りたいということ……』『誰かに決めて貰おうか?』

など、結局じぶんを隠していることをオープンにさらけ出し、秘密主義のようなものを貫いた。

秘密主義はやはり、モテると思う。

なんだろう。

ミステリアスに見えるから。

こんな俺でも多くのファンがついた。

女性ファンも多くついた。

まぁ妄想なのだが。

でも、なんとなく。

芸人として、生きて行けるような気がする。

この先、車を走らせ、峠を越えようとしているこの俺の様子が番組になる。

それは、いったいなんなんのか?

しっかりとした社会人になれず、最後まで学生気分を貫いてしまった人間が向かってしまう末路。

それが芸能人ではないのかと。

俺は、そういう結びつきを感じてしまった。

生きる力はもうある。

昔は怖かった。

一人で生きていくことが。

自立することが。

自分のことを自分で全て管理し、全てをやってしまったら。

それってとても一人ぼっちじゃん。

今、俺は、金こそ、給油だけに回そうとしているが、自給自足で、人の手も借りず、苦手だった上司に怒られた車の運転も。

こうして、上手にマニュアルの車を運転している。

俺は、変わった。

間違いなく強くなった。

芸能人としても、きっと食っていけるだろう。

そんな自信がついたと、俺がさんま御殿で語っている瞬間を妄想した直後。

涙が流れてきた。

自分は一人だ。

本当に一人だ。

これが自立なんだ。

誰にも甘えることなく、誰にも寄りかかることなく、自分の信じたみちをただただ進む。

そこに何があるかはわからない。

この番組もいったい何なのか。

それはわかたない。

でも、涙は止まらない。

美幌峠を越えようと走る車のなかで。

みっともなく、泣いていた。

みんなが通る道なんだろう。

俺は正直遅すぎた。

もう26歳。

26歳でようやく、それを実感できた。

すごく感謝の気持ちが出てきた。

じゃあ今度はみんなを喜ばせてあげよう。

俺はどこかにあるであろうカメラを意識しまくり、異常行動を続けた。

その時、その瞬間のルールや流儀を、テレビ番組のオンエアでやくみつるが解説している。

えっと、彼の今の所持金は4000円ないくらい。

とてもじゃないけど、峠を越えて、一人では生活は出来ないだろう。

きっとやくみつるはそう言っている。

財布の額もあっている。

俺は、気付いたら、知らない街にいた。

知らない町中のどこかのパチ屋の駐車場で。

車を止めて、町中をきょろきょろしながら歩いた。

そこで、やくみつるが再び解説する。

彼は、きょろきょろしはじめた。

そろそろお腹が減っているころだろう。

たぶんね、野草を美味しく食べようと考えているはずだ。

そう解説しているような気がした。

それは、あたっていた。

じゃあ、せめて。

卵をつけて、小麦粉もつけて、アブラで、からっと美味しく野草を食べようと。

俺は、コンビニ入った。

コンビニの卵のケースを手に取った。

それに、組織ややくみつるらが用意したであろう、1匹のハエが止まっていた。

あり得ない。

こんなタイムリーにハエが止まっているなんて。

これは間違いなく、俺が卵を買うことを知っている。

もっと驚いたことがあった。

なんと。

どんなにケースを動かしても、そのハエを触ろうとしても。

ハエは全く動じず飛び立たない。

まじで驚いた。

その時のおれ。

これ幻覚?

という疑いは持たなかったが。

でも本当におかしいと思った。

俺は、負けたと思った。

自分のその瞬間のルールや流儀を読まれ、行動を予測されたことに対して。

敗北感を感じた。

じゃあ、せめて。

せめて、笑いだけ取ろうと。

財布には4000円。

ここでコンビニに売ってある、全く自分にとって不要な者を買えば。

きっとこの番組を見ているであろう、視聴者は盛り上がるだろう。

俺は、コンビニのレジの近くの3500円くらいのDVDを手に取った。

この状況。

良く分からない土地で。

空腹で金がないこの状態で。

今もっとも必要のないよくわからないDVD。

まぁ、ベイブや、バックトゥーザヒューチャーや、ホームアローン。

それらの名作をこの場合買ったとしても、やはり不要である。

生命を脅かしかねない、買い物。

それを手にとっている自分を見て。

視聴者が叫ぶ。

買うなー。買ったら生活出来ないぞ。

買えー! あとでそれ見ないだろうけど、ここで金なくなったらおもろいから買えー!

やくみつるは、これは買いませんね。絶対。でも彼がこのDVDを手に取り、視聴者を盛り上げたことは、とても評価でき、センスを感じます。

俺は、思った。

この訳のわからない、興味のないDVDを買えば。

きっと、お茶の間は大爆笑だろう。

ただ笑いと引き換えに、給油が滞ってしまう。

残り500円では、おそらく家に帰れない。

どうする、ワトソン。

そうだ。

お金を貯金をおろせばいいんだ。

だが。

それはゆるされない。

そんなことをしたら、見ている視聴者は興ざめ。

この4000円という制約のなかで、組織と戦うワトソンだからこそ見てて楽しいのだ。

だが、おれは、コンビニの機械の前に立っていた。

まさか。

お金をここでおろすのか?

おろさないのか?

このさまよい続けるワトソンの行動。

この行動の未来はいずこへ。

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