【統失自伝エッセイ1】泣いたあの日 前編
俺は社会人が嫌いだ。
社会人は苦手だ。
社会人はみんな敵に見える。
子供の頃。
生まれて来てから、思って感じた、大人に対する違和感。
恐怖心。
コンプレックスとなるものを感じていた。
そもそも。
大人と子供の境界線ってなんだ。
学生と社会人はどう違うんだ。
社会人は、一般的に社会的責任が認められた者というようだ。
じゃあ、大人と子供は?
どういう違いなのか。
なぜ、昔は子供と呼ばれるところからスタートし、次第に大人にシフトしていくのか。
なぜ、そんな違いを表現するのか。
なんだか、そこに格差となるものを感じてしまう。
子供は物凄く、大人たちに差別的偏見や、見下せれている気分になる。
そういう意味で、俺は、大人と呼ばれる社会人が嫌いだった。
資本主義社会を生き抜く、社会人は一般的に競争の社会と呼ばれている。
どこの世界でも競争はある。
スポーツの世界。
リーマンの世界。
芸能界の世界。
さまざまな競争世界がそこには存在する。
俺は、この倒せ、蹴落とせ、のし上がれ!
といった、ハッキリと敗者と勝者がいるこの社会が、どうにもたえがたく、許せなかった。
人をおしのけ、嫌われてまで、金や出世のために、突き進むなんて出来ない。
人の心を傷つけてまで、戦おうなんて思わない。
それなら、ずっと負けでいい。
負け続けていい。
そもそも、勝ち負けなんて、誰が決めるんだ。
金をもっている人間が上なのか?
持ってない人間がしたなのか?
そんな勝ち負けや、人間の上下関係なんて。
何においてだろ。
って思う。
初めて就職した会社で。
俺は、全く右も左も分からず、誰にどこまで、何を聞いていいかわからなかった。
いざ、知りたいと思いパワハラ上司に質問するが、
帰ってくる言葉冷たいキツイ言葉だけ。
すぐに怒られる。
理不尽に怒られる。
教わってもいない初見殺しな怒り方をされたこともある。
部下をそうして、サンドバックにし、出世する上司。
後輩に仕事を教えず、自分だけ、活躍し出世する上司。
前に進むためには。
上司を超えるためには。
そのスキルや技能を奪うことが大切だった。
誰に習うことなく、自分で調べ、成長していくしかなかった。
でも、俺はこの仕事を好きになれない。
この上司、環境を好きになれない。
次第に、体調は悪化。
妄想がどんどん出てくれるようになった。
そのうち、何を俺が喋っても、相手に『ストレスを与えるだけ』って思うようになり。
自分の殻に閉じこもった。
会話はストレスを与える。
俺が仕事をすればするほど。
仕事が増える。
ストレスを与える。
情報を聞きだし、調べたりしてほしいとき。
それを相手にやらせてしまったら、可哀想って思ったりして。
それを聞くことが仕事なのに。
俺が喋るだけでもうダメなんだと思った。
俺には喋る権限なんてない。
俺は仕事ができないんだから。
楽しそうに話す資格なんてない。
だったら話さなければいいんだ。
もし、仕事ができるようになったとしても。
あいつは生意気だ、俺の若いころより生き生きと仕事しやがってって。
そういう上司の嫉妬をうむんだろうなって。
だから、俺は、もう何も出来なくなった。
気づいたら、俺は、目の前の簡単な伝票のまとめ作業も満足に出来なくなっていた。
目の間に広がる、紙、仕事、作業。
なんの意味があるのか。
何をしているのか。
俺は、部長に声かけた。
少し、個室で話しを聞いてくださいと。
部長を呼び出し、他の課長も心配していたが。
俺の精神状態はもう限界を迎えていた。
人の心がもうない。
人への優しさを失った嘘で塗り固められたこの職場で。
そうした環境に触れることにより、俺自身も汚い上司のように、嘘に染まっていくんじゃないかって。
それが、怖かった。
どうにも出来なかった。
自分の心を保とうと、人に対して、清く正しきものにしようって考えれば考えるほど、辛く苦しくなった。
過去まで、食いるようになった。
あの時。
あの女の子に。
酷いことしてしまったって。
あの時も。
あの先生に。
酷いことしてしまったって。
全ての人に謝りたい気持ちになった。
でも、もう遅い。
謝りたい人、謝る必要がある人。
それらの人が許してくれなかったら。
それらの人すら忘れてしまったら。
俺は、生きる資格がないと思う。
今までの過去の人を心の中できって、消してしまう人間が。
今後会う人達を大切に出来るはずがない。
人間は、もう許されない過ちを犯したら、もう終わりなんだ。
そうずっと思ってしまって。
気づいたら、部長の目の前で、俺は、テーブルに顔を伏せ、倒れていた。
全く動けなくなった。
もう考える力がない。
もう感じる力がない。
世の中の人。
みんながとても大人に見えた。
社会人の人たちがとても強い人達に見えた。
この人たちは、競いあって生きているんじゃないのか?
助けあって生きているのか?
なんで俺を助けてくれない。
助けを求める時点で俺は、子供だ。
大人になんてなれない。
子供だ。
一生子供だ。
机で突っ伏して倒れていた俺が、眼鏡を外した。
その瞬間その様子を見て。
部長が言う。
そう!
その感覚が大事と。
自分の意思をともなった行動。
俺の思考はほとんど停止していたが。
これをしたい。
やりたい。
といった考えて感じて動く行動。
これが大事なんだと部長は叫ぶ。
俺は、その叫ぶ声に。
さらに、苦しくなる。
また、俺は、指摘を受けた。
また、俺は、指導をされた。
ここで、既に、大人と子供の上下関係が生まれている。
俺が部長に、そう、それが正しい、なんてことは言わない。
部長は俺にそれを言っていい。
じゃあ、俺はいつ大人になれるのか。
いつ社会人になれるのか。
誰も助けてくれない社会人。
出世のため、金のため、地位のため。
自分の保身を優先するこの世界のなかは。
学生時代と違って、全く優しさのかけらがない。
社会人は他人の問題を自分の問題として共有しない。
いっさいそこに、瞬間的な心を重ねない。
そんなの切り替えろよ、とか。
ただ笑って、なんとかなるさ、というだけで。
絶対に同調しない。
でも、学生は違う。
友達の問題を自分の問題として、共有し一緒に悩んでくれる。
あるいわ、一緒に苦しんでくれる。
いつも友達はどんな瞬間でも。
笑顔のときも苦しいときも悲しいときも。
その瞬間で一緒に思いを重ねている。
社会人としては、それは人に依存しているんだ、とか。
友達なんて戯言言うやつは、他人に寄りかかって楽しているだけなんだ、とか。
自立し、質問したいこと自分でしっかり調べ、全てのことを管理してこそ、きっと社会人になれるのだろう。
俺は、そう思った。
でも、全てのことを自分で管理してしまったら。
生活も、言葉も、行動も。
それって、一人ぼっちじゃんって。
すごくそう思った。
もともと人間は誰かとくっついたまま生まれてくるわけじゃない。
一人で単体に生まれてくる生き物だ。
自分が一人ぼっちである事実に。
自分が気づいてなかっただけではないか。
生まれてきたとき、親は自分を育ててくれる。
でも、そこでもう、親と子という一つのスタンス、上下関係が生まれる。
最終的には、親の立場まで登りつめ、社会人として、同列な位置へいかないといけない。
そうして、子供と呼ばれる人達は、その親の立場の位置に向かうため。
親の言葉を聞き入れない、いわゆる『反抗期』という期間が必然的にくるのではないかと。
反抗期は必要。
一般的に言われている。
うちの子は、いつも言うことを聞いて、本当に手がかからないんです。
という親の子と。
うちの子は、友達と喧嘩しちゃったり、親と衝突したり、親に否定されても自分のやりたいことばかりやっている。
という親の子と。
どちらが、社会に通用する大人に成長できるのか。
間違いなく後者だろう。
前者はただ親のいいなりになっただけ。
自分のやりたいことを、見つけそれに強く突き進む自我が芽生えていない。
後者はどうだろうか。
後者は、親の意見を押しのけ、自分のこれがしたいという自我を持ち、突き進んでいる。
この反抗期という期間を経て、人は自立するための精神的強さを手にし、大人になる。
俺にそれはあったのだろうか。
人の目を気にしてばかりで。
人の顔色うかがってばかりで。
親に反論したことがなかった。
兄貴にも、電話で言われたことがあった。
お前には反抗期がなかったと。
自分には自我がないんだ。
小説を書きたいんだと思っていても。
今すぐ仕事をやめて、それをやろうという、強い決意がないんだと。
結局、流され続け、いいなりになり続け、結局俺は、社会人にも大人にもなれない。
じゃあ、いつ大人になれるのだろうか。
俺は、そんな苦しい葛藤を感じたまま、机から顔あげ、部長に聞いた。
『なぜ僕なんかを採用したんですか?』
と。
部長はこう答えた。
『あの短い面接で人なんて判断できない』
と言われた。
自分を卑下するなとかそういう解答を言わなかった。
俺の至らぬことを前提に、それを見抜けなかったという言葉。
俺は、そのあと、メンタルヘルスの保健室にむかい倒れた。
メンタルヘルスの先生が心配してくれた。
もう明日帰らないか?
と言われ、俺の実家への強制送還が決まった。
休職期間に入ることとなった。
寮の部屋へと入った。
社会が怖い。
社会人が怖い。
自立することが怖い。
この一人の部屋で。
もう誰にも甘えることは許されないこの空間で。
実家の親も友達もみんな戦って生きているというのに。
俺は、ぜーは-とノイローゼになった。
総務課の人が心配して部屋にきたが。
ただ俺は、顔に手をあて、はぁはぁと発作のように、ノイローゼになるだけで。
なにも答えることが出来ない。
そのあと、寮の管理人さんも部屋にきた。
俺は、ノイローゼになりながら、管理人さんに聞いた。
『友達ってなんですか?』
って。
60過ぎくらいの管理人のおじさんが答えた。
『自分の全てをさらけ出し、それを受け入れてくれる人である』
と。
俺は、今までのことを思い出した。
俺は、自分の全てをさらけ出してきたのだろうか。
俺は、隠してばかりの人生だったと思う。
人の顔色ばかりうかがって、隠したり、嘘をついたり、そういう卑怯な生き方をしてきた人間なんだと。
自分がそんなんだから。
きっとそれを知り受け入れてくれる人なんて出来てないんだと。
俺はそう思った。
管理人さんに言った。
『俺、そういう人間関係築いてこれなかったです』
管理人さんは言った。
『これから作っていけばいいよ』
俺は、その言葉を聞いても、やはり切り替えられない。
今までの人達に、隠して、嘘ついて、それで今後の人間関係でちゃんとした友達なんて作れるわけがないと。
もう俺の考え方に柔軟性がなかった。
こう思ったらこう。
臨機応変な物事の考え方が出来なかった。
カウンセリングを受けたときもそうだった。
カウンセリングでは、自分の抱えてる悩みを肯定してほしかった。
世の中は厳しい競争社会。
俺は甘い人間であり、人からの指摘を受け続ける俺は子供で、もう取り返しがつかなくて、生きてく意味がないんだと。
それをカウンセリングの先生に、そうだよ!
君の言ってることは正しいよ。
君はもう手遅れで、生きてる意味なんてないんだよって。
そう肯定してほしかった。
でも肯定してくれなかった。
俺はそこでもノイローゼになった。
次の診察も、最初は平気だったが。
カウンセリングを受ける以上、もっと病人にならないとだめなんだって。
自分から心に恐怖を感じて、ノイローゼを誘発したことがあった。
きっと町中で、このカウンセリングの先生に会っても。
この人は、カウンセラーなんだからって言う理由で。
あえて、ノイローゼに体調を悪くしなきゃって。
もう自分の行動に矛盾がいっぱいあった。
これでは、だめだ。
何も考えられなくなった。
終わりだ。
家に帰る準備も全く出来なかった。
もう考える力がそこにはない。
あだ歩くことだけ。
部屋の中をいったりきたり。
ずっと歩いているだけで。
結局、夜通し歩きつづけ、帰る準備も出来ないまま朝を迎えた。
朝ご飯を食べに行ったが、全く朝ごはんどころではなかった。
何も喉を通らない。
多分俺の生命活動ももう止まるだろう。
体がしびれはじめていた。
食堂から帰り、部屋と戻った。
その時。
心配していた母親から電話がかかってきた。
『今日帰るのかい? 帰るとき、ちゃんと電話かけるんだよ。いい? 絶対電話かけるんだよ』
元気なく、
『うん』
と一言答えるだけ。
この言葉は自分に響くのか。
響いたのか。
そう考えていると。
メンタルヘルスの先生の人が来た。
メンタルヘルスの先生に、一晩中に何も出来ず、一睡もできなかったことを説明した。
時間になるまで寝てていいよと言われた。
俺はベッドで横になった。
先生は隣でイスに座っている。
なんだか。
そのおかげで。
安心感があった。
そうだ。
おれは、どうぜ子供だ。
子供だから、こうして先生が隣で座っているだけで、安心感があるんだって。
そう思った瞬間また恐怖を感じたが。
でも、少しだけ眠ることができた。
そのあと、課長が部屋にきた。
部屋で課長が飛行機の予約の変更し、その後持ち物の準備。
メンタルヘルスの先生が。
まず保健証。
財布。
免許証。
と。
一つ一つカバンに入れた。
下着と、メンタルヘルスの先生が言ったとき。
課長が綺麗にパンツをたたんで、俺のカバンにつめた。
課長さんそこまでしなくていいのに。
とメンタルヘルスの先生が一言。
そして、準備が整い、寮を出ようとした。
寮の管理人さんが、
『必ず治して、戻っておいで』
と言われるが。
俺は、
『それは、本音ですか?』
尋ねた。
『本音だよ』
と言われた。
たて前に塗り固められた、社会人の人をもう信用出来なかった。
絶対本心ではそうではないだろうと。
車に乗り込んだ。
車に乗り込み、いろんな学生時代の友達のことを妄想した。
俺のことが嫌いだったとか。
みんなが口をそろえて言ってくる。
それに、辛い思いになる。
そして。
俺の生命活動はもう止まるんだろうなって。
体に痺れがある。
おそらく死ぬのだろう。
そんな気がした。
その瞬間。
学生時代一番仲良かった友達のことを思い出した。
Aという人。
Aのこと。
一番仲良かった友達に。
俺は、頭の中で声をかけた。
『A、俺これから死ぬわ。ありがとう』
そう心の中、頭の中で友達に言った。
友達のAは答えた。
『おう、元気でな』
そう言葉すくなに返した。
よし。
おそらく死ぬだろう。
もう。
いいかな。
何かを忘れていた気がする。
そう。
なにか。
友達にはお別れをいった。
でも、俺は、もっと大切な人の存在を忘れていた。
大切な人。
そう。
それは。
お母さん。
お母さんに電話。
出発前に、
『電話かけるんだよ』
という言葉。
俺。
お母さんこと。
忘れてた。
お母さんのこと。
お母さんのこと忘れたら。
それはもう俺は俺でいられない。
俺が、どんな汚れた人間の心だったとしても。
どんな人の心のない非情な心だったとしても。
育ててくれた母親のこと忘れたら、もうそれは生きる資格がない。
もう自分のなかに。
消えていた意識。
奇跡的にお母さんのことを思い出せた。
本当に奇跡であった。
そのとき。
俺の瞳からゆっくりと涙がこぼれてきた。
お母さんに電話しよう。
お母さんに今から帰ることを電話し伝えた。
涙で声がみっともなく震えないように。
震えそうな声を抑えながら。
隣にはメンタルヘルスの先生。
運転手は総務課の人。
そして、1時間以上走った車は羽田空港までたどり着き。
空港で飛行機の時間がくるまで待機。
俺は、メンタルヘルスの人に昼ごはんを奢ってもらったが。
たしか天津丼を頼んだ気がする。
しかし、全くそれものどに通らず。
奢ってもらったのに残してしまった。
そこでも、やはり罪の意識を感じた。
世の中に対して。
自分が許されている感覚。
自分はここにいていいんだっていう自覚の気持ち。
それが全く考えられなかった。
罪悪感ばかり頭を襲った。
そして、飛行機の時間がきた。
飛行機に乗るとき、メンタルヘルスの先生が心配し、まるで認知症の人を扱うように、案内の人を俺につけて見届けてくれた。
羽田から、釧路空港へ。
飛行機が飛び立った。
飛行機の中。
周りの人達みんなが大人に見えた。
高そうなパソコンを膝にのせる扱う人。
高そうなタブレットを持って扱う人。
高そうなカッコ良いオシャレな服を着ている人。
俺は、どうなんだ。
この人達のように。
ちゃんと時代の流れについていったのか?
ちゃんと自分の存在主張をしてきたか?
セックスアピールをしてきたか?
全くそれらはなかったと思う。
俺はもう手遅れだ。
俺はもうだめだ。
そう思った。
もしも、北海道に到着して。
お母さんの顔をみたら。
俺はどうなるのだろうか。
俺は泣くのだろうか。
おそらく泣くだろう。
たぶん泣くだろう。
そう考えながら、空港に着いた。
案内を受け、飛行機から降り、空港の搭乗口へ。
荷物を受け取り、
お母さんがいるロビーへ。
お母さん。
お母さんがいた。
お母さんが近づいてくる。
その瞬間。
我慢していたものが一気に溢れだした。
とてつもなく心に傷を受け、苦労し帰ってきた俺。
お母さんは俺に近づいてきたが。
そこで、俺はなぜか、お母さんを近づくなって、突き飛ばした。
甘えちゃだめなんだ。
このままじゃダメなんだ。
って。
反抗期のなかった俺は、親に甘えて、言いなりになって、今後も助けられながら生活する訳にはいかない。
だから、お母さんを突き飛ばした。
それでも、お母さんは、怒る様子もなく、優しく俺に一言、言った。
『ゆうきおかえり』
と。
化粧してきたお母さんが少し綺麗に見えた。